No.123 2005年9月15日 加登 齋

”私の老いるショック”

 私は、満77歳に程近い。SAITAネットの伊東さんがご紹介された、一橋大学江見教授の『老いるショックは三度くる』の分類を借りれば、私は一番上の『シニアオールド』になる。 お蔭さまで、現状は騙し騙し元気で働いているが、体の部品はそこら中が軋んで、故障がばかりしている。戦時中のポンコツ自動車さながらである。

 先ごろ、「ドラゴンスピーチ」なる音声入力ソフトがかなり使えると言う評判を聞き、その実力をトライしてみた。音声入力にはかねてから興味をもっていたし、その成長を、期待を持って見守ってきたからだ。 一方では、タイピング指導の後でやる指の折り曲げ体操で、自身の、指の動きにかなりのぎこちなさを,自覚し始めたからでもある。指の老化を、「音声入力ソフトの力を借りてカバー出来ないか」と言う魂胆あってのことである。

 先ずは、用意された文章を自分の声で読み上げパソコンに入れて、記憶させる準備作業から始めた。テスト作業として、友人“sakai”へのメールを選んだ。私がパソコンに繋げたマイクを通して、「sakai」と発声すると、「社会」なる漢字が画面に書き出される。「クイック修正」なる機能を利用してみたら、いろいろ似たような発音の言葉が出てきた。
だが、私が目的とする「sakai」に該当する漢字は無く,何れも“sha”の発音に関するものばかりだ。 何回か「sakai」の発声を繰り返したが、状況は変わらない。どうやら、私の発音“sa”は,パソコンには、“sha”と聞こえているらしい。私は,愕然とした。呂律の廻らない音の尤も顕著なのものは,“さ行”の音だからである。パソコンと言う、感情のない,存在が,事実だけを私に告げていると感じた。

 何度かパソコンに対し、私の,発声の癖の読み込みを繰り返し、パソコン教育を行った結果、ようやく、「堺」とか「境」といった漢字が出るようになった。友人の「坂井」とか「酒井」とか言う漢字は、固有名詞だから無いのかもしれない。別途ソフトに記憶させ、所期の目的を達成することが出来るように,なるにはなったのだが・・・・・。

 取り敢えず、私は、黒板を背負って,教室で受講生を前にしての講師を断念した。受講生の方々は決して無常な態度で私の欠陥を指摘することは無いだろう。しかし,当分の間は、パソコンソフトを相手に発声練習をするつもりだ。彼女は,必ずや私の発声の厳しい判定者として、密かに“発声矯正”に力を貸してくれると信じている。

マンションの窓の外では,ミンミン蝉が最後の声を振り絞って鳴いている。夕方にはオーシーツクツク蝉が声を張り上げる。蝉も頑張っている。台風も去り,残暑は厳しいが,確実に秋になってきた。

おわり